エレクトロ・ブック2010 (シンコーミュージック・エンタテイメント/2010) 

ゼロ年代半ばのいわゆる "エレクトロ" を紹介するガイド本。執筆陣は小林祥晴氏を中心に、青山晃大氏、田中亮太氏、Lapin氏が寄稿している。"エレクトロ" 前夜から "エレクトロ" 以降までの10年間を包括的に取り上げており、レビュー本として面白いし読み応えも充分。
さて、このいわゆる "エレクトロ" は、Kraftwerk以降NYやデトロイトを経由しながら現在まで綿々と連なる同名の音楽との混同をさけるために "フレンチエレクトロ" とか "ニューエレクトロ" とも呼ばれた音楽のことを指しており、本書では "エレクトロ" を次のように定義している。

元々エレクトロとは、アフリカ・バンバータがパイオニアと言われる、クラフトワークの無機質なシンセサイザー・サウンドとヒップホップのブレイクビーツを融合させたような音楽を指していた。しかし、それは80年代初頭の話。それから数十年の時が過ぎ、今やエレクトロは全く別物の音楽を指す言葉へと生まれ変わっている。本書が取り扱うのは、後者の全く新しい「エレクトロ」の方だ。(「はじめに」より)

しかし個人的にはこの定義には疑問符が点灯する。前者の "古い" エレクトロは、90年代になってもそしてゼロ年代以降も、デトロイトやドイツを中心に世界中で作られ、今も世界中のクラブでダンスされているからだ。
このロジックは、90年代にデトロイトテクノやシカゴハウスがヨーロッパのレイヴを通じて "テクノ" として世界中に広まった際に、ニホンにおいてはYMOに代表される80年代の "テクノ" を意図的に排除したときの構図とよく似ているが、80年代の "テクノ" が90年代にはほぼ死滅していたのに対し、80年代以降のエレクトロはゼロ年代も現役で機能していたという違いがある。
本書関係者がModel 500やDrexciyaやWestBamやTwo Lone SwordsmenやAlter EgoやAnthony Rotherといった "古い" エレクトロの子孫たちのことを知らなかったとも思えないので、やはり意図的なものなのだろうけど、いわゆる "エレクトロ" が勢力を拡大しようとしていたゼロ年代ならともかく、今現在そのロジックを再び用いるのは少し乱暴じゃないかなと。
まぁ僕は、本書でも言及されているエレクトロクラッシュなんかも含めて、(ゼロ年代のニュー)エレクトロは、エレクトロから派生したエレクトロの一部、という捉え方をしていたので、以上のような違和感を持ってしまったのだろう。冒頭にも書いた通り、本書はレビュー本として非常に面白いし、(ゼロ年代のニュー)エレクトロのムーヴメント(のさらに一部)がフィジットハウスやダブステップを始めとするベースミュージックに帰結していることにも触れられており、今後の音楽を漁っていく際にきわめて有用なガイドになると思う。
なお、本書の発刊に際して、共同執筆者のひとりであるLapinさんによるDJミックス『Hello Goodbye Electro』が公開されている。是非本書と合わせて聴いて頂きたい(このミックスめちゃくちゃ楽しいんで)。

CROSSBEAT Presents エレクトロ・ブック2010 (シンコー・ミュージックMOOK)CROSSBEAT Presents エレクトロ・ブック2010 (シンコー・ミュージックMOOK)
(2010/11/25)
小林 祥晴

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コメント

面白そうですね

この本、面白そうですね。明日にでも買いに行きます。

で、やはり現在におけるエレクトロの定義に疑問が残りますね。「全く別物」っていう表現がどうにも青臭い。僕がやっているブログのインスピレーションの源になったBBCの特番「ダンシング・イン・ザ・ストリート」の中で、Drerrick Mayがインタビューに答えています。「ルイ・アームストロングが登場した時点で、あれは最新の音楽だった。当時におけるテクノだったんだ。」僕が支持するのは、こういう大局的なものの見方です。

っていうか、表紙がダフパンの時点で"全く別物"と矛盾してますよね。ダフパンこそ、旧来のエレクトロとの架け橋的存在じゃないですか。

まあ、とりあえず読んでみます。基本的には大歓迎な出版ですよ、これは。
  • [2011/01/16 20:06]
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  • djmizuta
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タワレコで立ち読みしました。

ニューエレクトロを静かに見守ってきた自分としては
読み応えがある本でした。ダフパンが登場してきた
あたりから「エレクトロ」にちょっと違和感を
持ち始めたんですよね…けど嫌いではないですよ。

狭義のエレクトロと広義のエレクトロという風に
解釈は併存していていいと思います。結局、みんな同じ
電子音楽じゃん(笑)

個人的にはTR-808を使ったオールドスクール・エレクトロに
心惹かれます。
  • [2011/01/16 22:19]
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  • koh
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エレクトロハウスやエレクトロクラッシュなどを"エレクトロ"と呼ぶのは、
Wikipediaを"wiki"と呼ぶのと同じでおかしいんですよね

はじめに"エレクトロ"と省略した日本の雑誌編集の方はアフリカバンバータの方を知らなかったのでしょう。

広まってしまった今そういうのはナンセンスなのかもしれませんが。
  • [2011/01/17 10:12]
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  • 4つ打ち
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>> djmizutaさん

資料としても読み物としても面白い本だと思います(これ大前提)。
その上で、5年くらい前から "エレクトロ" という呼び名に対して感じていたモヤモヤしたものを文章化してみました。

Drerrick Mayの言葉はいいですね。
あとmizutaさんがよく書かれている "全ての音楽は絶妙な関係性を持って存在している" という考えに共感するので、そういう視点があればまた違った本の編み方になったのかも知れません。
いや、"エレクトロ" という特定のジャンルの縛りがある中では、比較的広い視点が持ち込まれているのかも(このあたり、複数の執筆者による結果でしょうね)。
  • [2011/01/17 12:17]
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  • びびんば
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>> kohさん

ん? Daft Punkが登場してきたあたりでは、まだここで言う "エレクトロ" というタームは用いられてなかったと思いますよ。
Daft Punkは音楽的にはテクノやハウスであり、ニホンでは強引に "デジタルロック" に括られていたはずです(笑)

もちろん解釈は併存してかまわないと思うのですが、わざわざ現存するジャンル名と同じ呼び方をしなくても・・・という気持ちがあるんですね。
Perfumeなんかのエレポップが出て来たときにそれらを "テクノ" と呼んだときも同じ思いでした。

あと、友だちというか知り合いが寄稿している本なので、出来れば買って下さい(笑)
  • [2011/01/17 12:28]
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  • びびんば
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>> 4つ打ちさん

ああ、ファンネルビットを "ファンネル" と略すのがおかしいのと同じですよね(伝わりにくい)。

ゼロ年代のニューエレクトロを単に "エレクトロ/Electro" と呼ぶのって世界共通だと思ってましたが、違うんですかね?
確かにニホンの雑誌等ではニューエレクトロのことを "エレクトロハウス" と呼んだり、混乱が見られましたけど、さすがにバンバータを知らない編集者/ライターなんてちょっと考えられませんけどねぇ。
  • [2011/01/17 12:39]
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  • びびんば
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言葉の定義って慎重に行なわないと、無用な誤解を生みますよね。
私も最初にテクノに触れた時、「YMOはテクノではない」という言説に
見事にハマった思い出があります。あれは一体何だったんだろう。

ファンネル…
いつからこう呼ばれるようになったのか。
Zの頃はまだビットだったような。
逆シャア以降?
  • [2011/01/17 21:15]
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  • koh
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>> kohさん

> YMOはテクノではない

これはテクノ布教のために卓球が言い始めたんですよね。
セカンド・サマー・オブ・ラブ以降のダンスミュージックとしてのテクノを認知してもらうために。
乱暴だったけど、確かに当時はそれが有効だった。

あと、ファンネルはZ以降ですね。
で、逆シャアで "フィン・ファンネル" って言葉が出て来るんです(笑)
  • [2011/01/18 21:14]
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  • びびんば
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びびんば さん
"New Electro"と聞くと自分はAnthony RotherやI-F、DJとしてはDave Clarkeを思い浮かべます。
80年代と00年代のエレクトロを区別するためにNewがついていますが、
中身はボコーダー&エレクトロビートで昔と基本的に同じですね。
"Electro-house"という言葉は海外で一般的だと思います。
電子音をフィーチャーした昔のダフトパンクみたいな音ですね。
90年代から00年代にかけてジゴロやフレンチタッチと呼ばれた人達がオールドスクール・ニュースクールのエレクトロとエレクトロハウスやエレクトロクラッシュを混ぜたコンピを出していて、
そのなかでも特にロック色の強いものを(もはやハウスというよりバンドに近いので)「エレクトロハウス」と呼ぶのをやめて「エレクトロ」と日本の雑誌やフライヤーで呼び始めたのが最初だと思います。
そしてこの呼び方はそんなに古いものではなく、
自分もはじめて聞いたときにぶっ飛びました。
「エレクトロって、ヒップホップ文脈は無かったことになっているのか?」と。

英語で音楽としての「Electro」にはざっと検索してみたところファンクとアフリカバンバータの意味しか出てこないみたいです。

繰り返しますが、すでに日本として広まっている以上、レディガガすらエレクトロと呼ぶのは間違ってるとは言えないでしょうね。
自分としては違和感を拭えませんが。
  • [2011/01/19 10:12]
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  • 4つ打ち
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熱い議論が!みなさんの意見が興味深いです。

正直僕自身古い意味でのエレクトロへの理解が浅かったりするので、そんな不敬が違和感を煽っているかなと。
すみません。
ただ僕自身エレクトロっていうネーミングに賛成ではないことをここに明らかにしておきたいと思います。

>Perfumeなんかのエレポップが出て来たときにそれらを "テクノ" と呼んだときも同じ思いでした。

これが割と実態に近い気がします。

あと知り合いじゃなくて友人でお願いします(笑)
  • [2011/01/20 14:17]
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  • lapin
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>> 4つ打ちさん

なるほど。
"エレクトロ" はエレクトロハウスの一部(ロック色の強いもの)の音を特に指す言葉として、ニホンのメディアが使い始めたのが最初だったということですね。

ちなみに僕はニューエレクトロと言えばJusticeやSurkin、Boys Noizeなど、エレクトロハウスと言えばBenny BenassiやJohn Dahlbäck、Zoo Brazilなどを思い浮かべてしまいます。
これも、共通言語として使用しているつもりのジャンル名が、実は別のものを指していた例になってしまいましたね・・・。
  • [2011/01/20 21:34]
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  • びびんば
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>> lapinさん

> 僕自身エレクトロっていうネーミングに賛成ではない

実はlapinさんの年末あたりの一連のツイートでそのことがわかったので、書きかけだったこの記事がストップしちゃいまして(笑)
で、どうしようか悩んだんだけど、結局そのまま書き進めました。

ジャンル名論争って不毛だと言うひともいるけど、僕は嫌いじゃありません。
やはり共通言語として機能しうる音楽のジャンル名って、音楽を聴いていく上でとても大事だと思うし。

> 知り合いじゃなくて友人で

おおお失礼。
皆さーん、友人が執筆参加してるので、まずは買って読んでくださーい(笑)
その上でより議論が深まれば楽しいなと思います。
  • [2011/01/20 21:52]
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  • びびんば
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>やはり共通言語として機能しうる音楽のジャンル名って、音楽を聴いていく上でとても大事だと思うし。

たしかにそうですね。
ネットで議論することにちょっとビビってたのはあるかも知れません。

強いて言えば元祖エレクトロの一般への認知度の低さは割とあるのかなと思います。
たぶんエレクトロってムーブメントに乗っかってた子たちって言うのは1%も知らないんじゃないかと。
これが不敬といえば不敬なんですが。

あと中心となったフレンチのエレクトロ勢のシカゴ・ハウスからの影響は明らかですが、元祖エレクトロの影響って言うのは直接的にはないのかなと。

こんなところがエレクトロって名前じゃなくてよかったんじゃない?ってとこです。



  • [2011/01/21 08:57]
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  • lapin
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こういう事が起こっているのは別に「エレクトロ」だけではなくて
「ミニマル」や「トランス」も昔と今では指す音楽の形態が結構変っていますね。

>ファンネル
オールレンジ攻撃を行うための小型砲台の総称がビット。
その中で本体に原動機をもたない充電式の小型の物がファンネルといった解釈でOKです。
  • [2011/01/21 10:05]
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  • LEGO CITY
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>> lapinさん

> 中心となったフレンチのエレクトロ勢のシカゴ・ハウスからの影響は明らかですが、元祖エレクトロの影響って言うのは直接的にはないのかなと。

そうなんですよね。
Daft Punkからは元祖エレクトロの影響もびしばし感じますが、Daft以降のフレンチ・エレクトロの連中とかからは皆無ですもんね。
Busy Pとかも、(元祖)エレクトロって言うよりもヒップホップ本体からの影響は強いみたいですけど。

あと、Boys Noizeは元祖エレクトロではなくて、その子孫である90年代以降のテクノシーンにおけるエレクトロの影響下から出て来たひとなんだと思います。
何せ初期はGigoloやDatapunkから出してますから。

そういえば、直接的影響という意味では、Alter Ego「Rocker」がエレクトロの形成に大きかったのではないかと感じていたのですが、本の中ではあまり触れられていませんでしたね。
これは当時の僕の思い過ごしだったのかも。
  • [2011/01/21 23:52]
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  • びびんば
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>> 909さん

そうですね。
ほかにも "プログレッシヴハウス" とか。

ただ、ミニマルは昔と今とでやってるひとが似通っていたり、トランスはジャーマントランスとダッチトランス以降のユーロトランスとで音楽的共通項も見出せたりしますけど、エレクトロに関しては共通性が希薄な(ように見える)ところがミソかなと。

ファンネルの件、理解しました。
ありがとうございます。
  • [2011/01/21 23:59]
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  • びびんば
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>そういえば、直接的影響という意味では、Alter Ego「Rocker」がエレクトロの形成に大きかったのではないかと感じていたのですが、本の中ではあまり触れられていませんでしたね。

僕も客観的にこのトラックの存在は大きいと思います。
ちょっと好みが出ちゃったかもしれませんね(笑)

Busy Pのヒップホップ好きは正統というか割りとミーハーっぽいですよね(笑)

Boys Noizeはちゃんとドイツの血を感じます。
そんなところが現在ポスト・エレクトロで割りと音がテクノ/ミニマルに寄ってきてる中、彼のレーベルの勢いが健在であることの一つ根拠になるかなと思ったりします。
  • [2011/01/22 10:07]
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  • lapin
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>> lapinさん

> ちょっと好みが出ちゃったかもしれませんね(笑)

なるほど(笑)

Boys Noizeは最近リミキサーにテクノ(しかも昔のハードミニマル)の連中を起用したり、レーベルの新しいコンピがアシッドものだったりして、注目しています。
  • [2011/01/22 11:52]
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  • びびんば
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