水曜日のカンパネラ - ジパング 

Artist: 水曜日のカンパネラ
Title: ジパング
Label: Tsubasa Records
Catalog#: TRNW-0150
Format: CD
Released: 2015/11/11
しょっぱなから陳腐な表現で恐縮だが、水曜日のカンパネラ(以下 "水カン")にとって、2015年はまぎれもなく飛躍の年だった。
きっかけはヤフオク!のTVCMへの抜擢だったのかもしれないが、それを下支えしたのは2014年10月に出た4thミニアルバム『私を鬼ヶ島に連れてって』(過去記事)のロングセラーと、収録曲「桃太郎」のMVのYouTube再生回数の衰えない伸びだろう。
今や地上波のTVでもその姿を見ることが珍しくなくなった水カンの5枚目のミニアルバム『ジパング』は、これまでと同じくつばさレコーズから。このタイミングでメジャーに行かなかったのははっきり言って意外だった。

本作では、水カンを取り巻く環境の大きな変化とともに、音楽的にも大きな変化が見て取れる。テクノ、トランス、ドラムンベースといった90年代に生まれたクラブミュージックを基調としたトラックに、ガットギター、ピアノ、パーカッションが組み合わされるいわゆるケンモチサウンドは、思ってもみなかった跳躍とともに、フューチャーベース、ジャージークラブ、ジュークといったテン年代のクラブミュージックのモードを基調としたサウンドに軽やかにアップデートされた。
(このことは先月ミナホ(過去記事)でお会いしたケンモチさんに「ずいぶんと音が "若く" なりましたね。」という表現で感想を直接伝えたことがある。まだ「西玉夫」のMVが公開されてすぐの時期だった。このときにいくつか聞かせていただいた貴重なアルバム制作の裏話は僕の胸にしまってある。その後のインタビュー等で表に出てる内容もあるけど、ひとつだけここに書いてしまうと、このとき、その日ライヴで演った「ラー」の話題からジャージークラブのいわゆるキコキコ音の話をされていました。ケンモチさんの耳の早さに舌を巻いた。)
これには、例えば "主演女優が売れ始めるにつれ演出にも口を挟むようになる" ように、水カンのサウンド・コンセプトに積極的に関わるようになったコムアイさんの影響も大きそうだ。
また、そのコムアイさんのヴォーカルも、以前のような不安定さやおぼつかなさ(そこも魅力のひとつではあったのだけれども)は後ろに下がり、彼女ならではの透明感のある伸びやかさと滑らかさを自らのものにしている。
一見相反するように見える変化と円熟、そしてファンの期待と熱狂のピーク。歴史的名盤ってこういう条件のときにこそ生まれるものだ。

アルバム『ジパング』の世界は、北海道を出発し(「シャクシャイン」)、中国(「猪八戒」)、ギリシャ(「メデューサ」)、エジプト(「ラー」)を経て、1960年代のイギリス(「ツイッギー」)、さらには "21世紀の未来"(「ウランちゃん」)、1900年代のアメリカ(「ライト兄弟」)と、矢継ぎ早に繰り返される場所も時間も超越しためくるめく旅(トリップ)なのだと僕には感じられる。その後も舞台は7世紀の中国へと戻り(「小野妹子」)、世界各地の雄大な川々を流れ流れて日本の多摩川に辿り着いた(帰還した)ところで(「西玉夫」)、この壮大な物語はいったん幕を閉じるのだが…。
ラストの曲に「マッチ売りの少女」が配されたことはとても示唆に富んでいる。つまり、このアルバムを通して描かれ体験した、場所も時間も超越した色彩豊かなめくるめくトリップは、すべてマッチの炎の中に映る幻のようなものだったのではないか。この無常と突き放され感が、この曲のレゲトンの明るいビートとサックスのメロウな音色によってひときわ強く感じられる。
しかし、儚むことは何もない。もう一度CDプレイヤーの再生ボタンを押せば、ほら、またいつでも同じ旅に出ることができるのだから…。

ここで再び『ジパング』の旅を夢見るのも良いし、あるいはさらに外の世界の広大な音楽の大海原に足を踏み出してみても良い。その際のヒントはすでにこのアルバムの中に隠されているし、そうやって自らの経験値を高めて再び『ジパング』の世界に戻ってきたときには、このアルバムはそれまで以上に、そしてまた新たな輝きを放っていることだろう。



Tracklist
01. シャクシャイン
02. 猪八戒
03. メデューサ
04. ラー
05. ツイッギー
06. ウランちゃん
07. ライト兄弟
08. 小野妹子
09. 西玉夫
10. マッチ売りの少女
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コメント

ニューアルバムに添えて
びびんぱさんがケンモチさんと話をされていたので、アルバムを聴いてどう思われているのかが気になっていました。
なんか日替わりでお気に入りの曲が変化していくようなアルバムで、映像的にも「マッチ売りの少女」のコムアイに久しぶりにドキドキしました(笑)
  • [2015/11/19 20:28]
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  • 存在する音楽
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存在する音楽さん

ミニアルバム10曲中すでに6曲のMVが公開されましたね。
「マッチ売りの少女」は特に好きな曲です。
ニューアルバムについては、やはり音的に大きく変わったというのが大きな印象ですかね。
  • [2015/11/21 19:31]
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  • どどんぱ
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