宇多田ヒカル - Fantôme 

Artist: 宇多田ヒカル
Title: Fantôme
Label: Universal Music
Catalog#: TYCT-60101
Format: CD
Released: 2016/09/28
若者文化を執拗なまでに持ち上げてきたわが国において、20代前半くらいまでの若者が持つ社会の中における全能感のようなものは、程度の大小はあれど皆経験あると思うし、特にバブル期に学生時代を過ごした僕たちの世代はそれが顕著だったと思う。
と言っても、僕たちが就職する頃には超氷河期と呼ばれる状況になっていて、今までさんざん持ち上げられてきたのを手のひらを返してまたたく間にどん底に突き落とされるという社会の二面性を味わうわけで、僕自身も大学卒業後の数年間は定職に就いておらず、そんな時代に宇多田ヒカルは登場した。
僕にとって彼女が象徴していたのは、これからの時代をサバイブする力を持った新世代の台頭であり、僕たちの世代はやがて彼ら彼女らに駆逐されるんだろうなという諦めだった。この頃、まだ20代前半の僕たちよりもさらに若い世代のアーティストやスポーツ選手の活躍がなぜか目立った時期でもあり(それは、いつのまにか高校球児たちが自分よりも年下になっていた事に気づいたときの何倍も衝撃だった)、彼女はその代表のように感じた。
とにかく、宇多田ヒカルはスペシャルだった。

宇多田ヒカルの新作を聴いて、ああ、宇多田もおばさんっぽくなったな、と感じた。あ、けして悪い意味で言ってるんじゃなくて。
音楽的には、オーセンティックなR&Bから先鋭的な実験を取り入れたものまで飽きさせないし、彼女の、少し太くなった声がすべての楽曲を宇多田ヒカルとしてまとめ上げている。
以前の宇多田ヒカルには、若い女の子特有の、足元が数センチ宙に浮いているような現実世界(佐野元春の言う "生活といううすのろ")との接点の希薄さを感じたりもしたが、新しいアルバムから紡ぎ出される言葉からは、彼女の人生が、生活が、リアリティが増している。
彼女がアーティスト活動を休業して取り組んだ、主に海外での "人間活動" とは、つまり生活といううすのろを取り戻すことだったのだろうけど、結果として彼女を大人にしたように見える(もちろんそれが主な要因でないことは知っていますが)。現在のこの国では、ひとが大人になるのはとてもむつかしいことだと思うから。

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(解説)
素人が運営している弱小blogがプロのライターの文章と渡り合うつもりはないけど、どうやったら少しでも多くのひとに読んでもらえるか。例えば、取り上げる題材にニッチなものを選んで、比較的マイノリティの支持を狙うという手法があります。実際当blogも、以前はテクノの12インチやアルバムというニッチなジャンルを選んで取り上げてきました。しかし正直に書くと、最近はあまり現行テクノを積極的に聴いてないし、一般的にメジャーとされる音楽により強い興味が惹かれる状況の中、すでに万人に受け入れられている音楽をわざわざ自分のblogで書いてもただ埋もれてしまうだけで、そんな中独自性を発揮するにはどのような方法があるかを考える必要があります。いわゆる "自分語り" というのもそのひとつで、なぜか敬遠されるきらいもあるものの、自分自身はライターの自分語りを絡めながらアーティストや作品を読み解く文章はわりと嫌いではなく、当blogでも何度となく使っています。



Tracklist
01. 道
02. 俺の彼女
03. 花束を君に
04. 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎
05. 人魚
06. ともだち with 小袋成彬
07. 真夏の通り雨
08. 荒野の狼
09. 忘却 featuring KOHH
10. 人生最高の日
11. 桜流し
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